
京丹後の設計事務所「U設計室」(網野町島津)が4月21日、一棟貸しの宿「Umieru(ウミエル)」(網野町遊)をオープンする。「Umieru」の施設名は、「海が見える」と「U設計室の設計が見える」という2つの意味をかけて名付けた。
「Umieru」のロゴ。「mieru」の部分は宿から見える山の尾根をなぞっている
同施設オープンのきっかけは、遊地区出身の介護関係者である稲岡錠二さんが、同事務所代表の大垣優太さんに「空き家を活用してくれる人を探している」と声をかけたこと。リノベーション以前の物件には稲岡さんの知り合い(通称、晋ちゃん)が単身で住んでいたが、高齢になり介護が必要になった際、介護車両が集落の狭い道路に入れず、在宅介護サービスを受けるのが困難だったため、周囲の後押しで介護施設への入所が決まった。生活面や身体面での安全性は確保されたが、晋ちゃんの「あの家でずっと過ごしたかった」という強い思いを受け、稲岡さんが「元の家主が戻ってこられるような形で、古い空き家を活用したい」と動き出した。
大垣さんは、以前から「空き家を減らしたい。丹後の昔からの景観を守りたい」という思いを持っており、通常の設計事業と並行してシェアハウスなどを運営しながら、古民家リノベーションの重要性を訴えてきた。しかし、大垣さんによると、「古民家リノベーションは実際の事例を見ることでイメージが湧き、施工を決める人が多いが、実際の事例を見学できる場は新築ほど多くない」という。同事務所も住宅展示場は持っておらず、今までは同事務所が手がけた事例を「オープンハウス」という形で見学してもらうことで古民家リノベーションを広めてきた。
そうした中、「観光客を呼び込みながら、シェアハウスよりも利益率が高く見込める宿を、古民家リノベーション事例の展示場として活用しては」と大垣さんは考えた。そこに稲岡さんから声がかかり、物件を見た大垣さんは、その立地と景観に引かれ、同施設を造ることを決めたという。
「宿」という形なら元の家主もゲストとして宿泊することができると考えての決断で、実際に物件の元家主である晋ちゃんも宿泊を予定する。
同施設は1棟を2つの部屋に分け、1部屋に最大6人が宿泊できる。部屋のコンセプトは、明るい色使いで白と緑を基調としたデザインの「白」と、黒とオレンジを基調としたシンプルで落ち着いた印象の「黒」。それぞれの1階と2階でも雰囲気を変え、1階はあえて古民家らしさを消して新築に近い造りに、2階は元々あった梁(はり)を見せるなど古民家らしさを残した造りにした。「お客さまに展示場として見てもらう際、どんな雰囲気が好きかというイメージを具体的に持ってもらうために、あえて部屋や階層で異なる印象のデザインにした」と大垣さんは話す。
大垣さんは「1階にテラスを設けることで、高台にある立地と窓から見える景色を生かしている。内装の色使いは少しレトロさを意識しており、U設計室らしさを出した。もともと状態が悪く、雨漏りもしているような家だったが、フルリノベーションすることでここまで変わるということを見せられたら」と話す。
さらに、「丹後を知るきっかけになってほしい。ただ泊まるだけではなく、丹後と接点を持てる場にしたい」と話し、近隣の「お薦め」スポットなどをウェブサイトに掲載する予定だという。今後は同施設で得た収益をさらなる古民家のリノベーションに使いたいと考えており、「家族向けの小さな貸家や、高齢者向けのシェアハウスなどにも挑戦したい」とも話す。
4月20日には「オープンホテル」と題したオープニングイベントも行う。同施設では大垣さんと、同事務所の小林朝子さんが、訪れた人に建物内を案内する。遊区公会堂では同日、稲岡さんが「晋ちゃんげ改装して何するだ? 『遊』を知る勉強会」と題したイベントを開催。地元ガイドの蒲田和加子さんによる遊地区のガイドツアーも同日午前・午後の2回、行う。参加無料。駐車場などの詳細はインスタグラムで伝える。
宿泊料金は3万6,000円(1部屋)、3人目以降、1人1万円。小学生は大人の半額、幼児添い寝は3,000円。予約はウェブサイトとAirbnbで受け付ける。予約時に「てんとうむしばたけ」(弥栄町)の夕食・朝食セットや、「舞輪源」(弥栄町)のクラフトジンなどの注文も受け付ける。